RRC ID 60808
著者 新間 秀一
タイトル 質量顕微鏡による農薬分布可視化
ジャーナル 日本農薬学会誌
Abstract 質量分析を用いた生体中の無機元素可視化手法は,材料 科学で用いられる二次イオン質量分析を用いた手法がすで に報告されていた.1)しかしレーザーによるソフトイオン化 を用いた生体中有機分子の質量イメージング法(MSI: mass spectrometry imaging)は , 1997 年に米国 Vanderbilt Univer- sity の R. M. Caprioli らにより発表された論文が最初である ということになっている.なぜこのような書き方をするかと いうと,実際に生体組織の直接質量分析を最初に報告したの はヨーロッパの B. Spengler であるという議論もあるからで ある.したがって,ここではこのような背景に基づき R. M. Caprioliの論文ならびにB. Spenglerの発表要旨を参考文献と して挙げておく.2‒4) MSI の流れを図 1 に示した.試料採取ののち組織を薄切 し,導電性を持つプレートに固定する.このプレートは一般 的に透明な金属である ITO(インジウムスズ酸化物)を表面にコーティングしたガラスを用いることが多い.試料前処理 後,試料表面で直接イオン化を行い,生成されたイオンを質 量分析計で検出する.最終的に得られたイオンの強度分布を マッピングし分布情報とする. この一連の流れから分かるように,組織上で直接イオンが 検出できれば,それらはすべて可視化可能である.さらに, 質量分析による検出であるため,高い精度で特定の分子の 分布を得ることができる(筆者はしばしば『分子の分解能が 高いイメージング手法』という言葉を用いている).得られ るデータの解釈が非常に明快であることから,その応用範囲 は表 1 に示す通り,医学・薬学分野をはじめ現在では植物科 学,食品科学の分野まで裾野が広がっている. 1997 年から 2000 年代初頭は,タンパク質の直接イオン化が盛んであった時期と重なるため,MSI のターゲット分子も主にタンパク質であり,免疫染色法に代わる手法として大きな期待を集めた.筆者も MSI の研究を開始した当初はタンパク質の MSI を試みていたが,5‒7)いくつかの問題に直面したため,途中から低分子の可視化にシフトしたという経緯が ある.8)本レビューでは,日本における MSI 研究の始まりの状況 を織り交ぜつつ MSI 専用装置としてデザインされた質量顕 微鏡の開発経緯を紹介する.そして現在筆者のグループで行っている研究分野の一つである農薬分布可視化について, トマトおよびショウジョウバエを用いた例を試料前処理法と ともに紹介する.
巻・号 44(2)
ページ 203-209
公開日 2020-5-16
DOI 10.1584/jpestics.W19-41
リソース情報
トマト TOMJPF00001(Micro-Tom)