Abstract |
エナメル質形成不全症(AI)は,エナメル質に全顎にわたる白濁や着色,実質欠損や形態異常を伴う遺伝性疾患である。エナメル芽細胞で発現する分子の異常が AI を引き起こすと考えられており,その分子の 1 つにエナメリンがある。今回エナメリンの機能解析の基礎的データの蓄積のため,AI を呈するマウス系統 EnamRgsc514 を用い,変異のホモ接合体およびヘテロ接合体の歯胚形成および萌出後のエナメル質の性状について検討した。
マウス EnamRgsc514/+ を交配し EnamRgsc514/Rgsc514,EnamRgsc514/+ および Enam+/+ を得た。3および 6 日齢の第一臼歯の歯胚の観察,実体顕微鏡およびマイクロ CT による10 週齢の臼歯部の観察と走査電子顕微鏡(SEM)による臼歯水平断の観察を行った。3 日齢の EnamRgsc514/+ では規則的に配列したエナメル芽細胞と象牙質の形成を認め EnamRgsc514/Rgsc514 においても密なエナメル芽細胞層を認めるが,わずかに細胞配列の乱れを認めた。6 日齢の EnamRgsc514/Rgsc514 のエナメル芽細胞は細胞極性および円柱状構造を失い規則的な配列は見られず,また,象牙質に接した嚢胞様の構造体とその内部に泡沫状の空隙を認めた。実体顕微鏡による第一臼歯表面の観察では 10 週齢の EnamRgsc514/+ で僅かに粗造な面を認めEnamRgsc514/Rgsc514 では明らかな粗造を認めた。マイクロ CTから EnamRgsc514/Rgsc514 にはエナメル質は認められず,SEM 像から EnamRgsc514/+ のエナメル質の表層部に小柱配列の乱れと消失を認めた。EnamRgsc514/Rgsc514 では,小柱構造をもつエナメル質は存在しなかった。
3 日齢の EnamRgsc514/Rgsc514 でエナメル芽細胞の分化と基質の分泌が認められ,6 日齢で 正常なエナメル質が認められないことから,3 〜 6 日齢の間にエナメル芽細胞が崩壊したことが明らかとなった。
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